―この淫蕩なる聖女―
メディチ家の毒薬、ボルジア家の毒薬の
《秘密》を手中にする者は誰か。
隠れた実験と研究に費やされる莫大な費用、
そして謎の急死をとげる人びと。
17世紀ヨーロッパ貴族社会を再び震撼させた《毒薬の流行》。
そのパリに燦然として生きた稀代の殺人者・侯爵夫人の絢爛たる
凄惨の悲劇をめぐって悪の本質を追求する。
かつて「ボルジア家の人びと」で近代文学賞を受けた
著者の久々の書下ろし評伝。

「たくさんの人が罪を生きているのに、なぜ私ひとりだけが
　死ななければならないのかしら」処刑に先立つ数分前、
マリーはそう言った。彼女自身が生きるという最高、絶対の
命題の前には、他人の生命などいささかも重要でなかったマリー。
自己の官能と享楽へのあくなき情熱のゆえに
華麗なる毒殺のドラマを生きた
美しき侯爵夫人のめくるめく奔放の生涯。